開業前の気持ち

 不安な日々と期待の入り混じった感情が開業まで続きました。

 

 

1.開業するか否か・・・

 多くの先生方が、勤務医を続けていると、漫然と業務をこなす日々に、嫌気が差す時が1度や2度少なからずあると思います。  

 私の場合は、院長から理不尽な要求をされた時や、あまりに業務が忙しくて、気力も体力も一杯一杯になったことが開業の1つのきっかけでした。ただ、開業したい気持ちは、瞬間湯沸かし器のごとく、一気に気持ちが高ぶっても、2~3日すれば、すぐ開業熱が冷めるという感じで、それを1~2回/年×5年間ほど繰り返していたと思います。  

 というのも、バブル崩壊以降、日本国の経済事情が厳しく、また高齢者社会のよる社会保障費の増大もあり、国としても医療費の抑制が必須なわけです。簡単に開業して、一儲けできる時代ではありません。ひと昔前のクリニック経営と比べて、明らかに収益が出にくくなっていることは、自分が研修医の時代から知っていましたので・・・。  

 また、開業すれば今度は院長という身分。雇用するのも、経営するのも自己責任。年にも知らない医者は、それこそコンサル業者のカモ。いろんな業界の方が、近寄ってきます。ああ、面倒くさい・・・。こんな感じで、私は開業への一歩を踏み出せずに、勤務医として5年間を過ごしてきました。  

 歯科や接骨院の業界では、供給過多で、年収300万のところもあるようです。コンビニ以上に、歯科クリニック、整骨院・接骨院が、周辺にあふれていますよね。医科の場合は、よっぽどのことが無い限りは、経営破綻することは無いにしても、患者様に満足していただける医療を提供しつつ、自分の給与もそれなりに得るためには、経営センスを磨くとともに、スタッフ1名1名にもそれなり配慮し、さらに医療点数を熟知しておかなければなりません。

 開業しておいて、好きな勝手言いますが、経営はしんどいです。が、良く考えてみれば、やったことが無いことは、どの分野であれ、誰でもストレスを感じます。研修医の時に、抗癌剤を溶解して患者様に投与する行為、初めてメスを握って患者様の体を切るといった行為は、確かにストレスでしたよね。  

 このホームページをご覧になっている先生方は、だいたい40歳前後だと思います。経験豊富なベテラン医師となっていることでしょうから、ほぼ日々の医療にストレスを感じないような技を自然と身に着けており、ちょっとやそっとのことでは、ストレスを感じなくなっていると思います。  

 逆に言えば、学会発表でもしない限り、漫然と淡々と日々の仕事をして、あと20~30年勤務医として退屈な人生を送るのではないでしょうか。おっと、失礼しました!退屈とは、軽率な発言でした。しかし、私自身、開業1年前前までは、そんな波風立たない穏やかな人生を望んでおりました。当直も無く、家族と晩御飯を一緒に食べられる時間に帰宅できて(私の前職の勤務条件は当直無しだったので・・・)、手術もそれなりにやって、患様に喜ばれて・・・すばらしいじゃありませんか!  

 であれば、なんで開業したのでしょう・・・?今考えれば、タイムスリップで、過去に戻れるのであれば、開業せず、勤務医で自分のやりたい医療を特に何も考えずにやり続けている・・・・・かもしれません。  

 39歳で、部長職をもらい、自分の好きなように医療を行い、当直業務も免除してもらい、高額の給与もいただき、また、スタッフとの関係も良好で、患者様には喜ばれ、雇用する病院としては、何が不満で辞めて開業するのか、なかなか理解していただけなかったと思います。院長先生、私の開業を認めて下さりありがとうございました!

2.開業決定理由

 開業すると決めた理由、それは、いろんな条件がそろったからでしょうか。  

 ①気持ち  
 ②立地  
 ③融資  
 ④コンサル業者


 ➀気持ち  

 結局、開業するのは、経営者になってみたいという気持ちです。整形外科部長という肩書、高額の給与、好条件の労働時間、職場の人間関係良好、病院周辺の患者様も温かい人ばかり。これだけでも、おそらく100人いたら、99人までが、「開業?アホちゃうん?」と言うと思います。  

 厚遇された勤務医でももちろんいいのですが、これが、あと20年は続くのかと思った時、一方で「 飽き性の自分には、耐えられない!」とも思いました。  

 また、「自分なら、もっとうまく経営できる!患者もたくさん来る!売り上げも伸ばすことができる!」 と勘違いするのも、大事と思います。同僚の女性医師に、 「あなたは、夢見る夢子ちゃん」 とバカにされましたが、経営って、ある意味バカじゃないとできないと思います。勢いだと思います。  

 開業して失敗しても、借金は背負いますが、死ぬわけでは無いんです。北海道や離島には、今でも医師を欲している地域がたくさんあります。そういう生活も悪くないじゃないですか。そんなことよりも、 「開業したら、うまくいかない」 とか、 「人を雇う立場になるから大変」 とか、 「医療費削減しているのに、昔みたいに大金持ちになれないとか」 、夢のないことを言う人は、しょせん、アスファルトの道しか通れない人だと思います。 新たに道を切り開く方、私は、応援します!!


 ②立地  

 開業するにあたり、立地というのは大変重要です。本当は、最後の勤務先の近くで落下傘開業というのが理想的です。開業当初からそれなりに患者様が来てくれて経営も安定すると思います。私の場合、勤務先が、隣の市で、しかも、自宅から20㎞以上離れたところなので、自動車でも電車でも、「患者様はまず来ないだろう」と思っていました。が、今でも、クリニックに来てくれる患者が数人いますけどね!感謝!!    

 地元に開業を希望したのは、やはり、地元であることや、自宅からの距離です。前の勤務先は、自動車で40~50分でしたから・・・。「時は金なり」です。今のクリニックは、自転車で5分以内のところです。    

 地元であれば、何となく、この地区が危ないとか、ここは競合クリニックが少ない地区だとか、わかりますので、あとは、固定費となる賃料をどれだけ安くできるかだと思います。    

 私のクリニックは、はっきり言って、クリニック前の道路を通らない限り、気がつきません。今、冷静に考えれば、片側1車線、大通りから外れたところ、よくこんなところで開業したものです。しかも、看板は、クリニック前のみ!これじゃ、どうにもこうにも、患者様は来てくれませんよね!本当は、大通りが目立っていいのですが、それなりに賃料は高いです。もっとも、土地の安い郊外や、土地持ち、自己資金がたくさんある方は、賃料なんてものは考えなくていいのでしょうけどね。


 ③融資  

 融資を受けるのは、自己資金がゼロでも可 能です。住宅ローンを返済していても大丈夫です。ただし、妙な借金、ここ数年以内に返済を延滞したことがある方、保証人になっている方などは、融資を受けられないかもしれません。このあたり、銀行側が、CICやJICCに照会しますので、どんなに嘘をついてもバレバレです。

 融資してもらうためには、いくつか方法があります。まず、どれだけ立派で、どれだけ高額な給与をもらっている医師であっても、準備無しで直接銀行の窓口に行ったら、まず門前払いと思います(銀行の中には、クリニック開業融資部門があるところもありますので、そこならおそらく始めから交渉してくれます)。最低条件として、事業計画書、売り上げ予想は必須です。このあたりは、よっぽどご存知の方でない限り、うまく乗り切れませんし、そこで挫折というか、貴重な時間を割いてしてしまっては、前に進みません。  

 結局、コンサル業者に依頼することになるかと思います。

 ※令和5年現在、X(旧ツイッター)を見ていると、特にお礼も無く、コンサル的にアドバイスをしていただけるドクターもいるようです。 

 融資額についてですが、やはり、開業するドクターの年齢が最も重視されるのではないかと思います。50歳で開業希望の方より、40歳で開業する人の方が、銀行としては貸しやすいでしょう。担保がつく物件を持っているか(持ち家等)、担保がつく土地を購入してクリニックを建てるか等により、融資額も異なると思います。  

 中には、ついでに自宅と兼用したクリニックを建てようとする先生もいらっしゃると思いますが、セキュリティー、プライバシーの面から、お勧めしません!


④コンサル業者    

 要注意項目です! これは、一番、選択が難しいところです。    

 実は、私の場合、依頼したコンサル業者が幼なじみででした。それも、医療コンサルを100件くらいしている人物だったらいいのですけど、経験値ゼロの彼と契約しました。これには、理由があります。まず、彼が会社を保険会社や広告代理店などの経営していたこと、彼に勢いがあったこと、新鮮味があったこと、彼の過去の武勇伝を聞いたことなどでしょうか。彼は、「客に、気持ちよく仕事をしてもらいたい」と常々言っておりました。今となっては、 虚言というか、リップサービス だったのですけどね。    

 私としては、幼なじみとして、期待していたのですけど、 コンサル料を払ってから、段々本性が見えてきて、メールは、毎回誤字脱字だらけ、敬語は使えないし、お客様(私)に対して、暴言を吐く、最終的には、メールを送っても返事は帰ってこなくなりました。 メール読むのは読んでいる痕跡はあるのですけど、メールを返信しないというのは、非常識極まりないです。もちろん、私のメールは、彼のように常識を逸する内容でもなく、内容的にも大人の対応をしてきました。経営者としても失格だし、人としても最低だし、幼なじみとしても、男としても、情けないと思います。    

 彼が以前、「俺には友達がおらへん」と言っていた理由が分かります。「それは、お前自身の問題やろ!」と忠告してあげたいけど、残念ながら、私にも耳を貸さなくなりました。もう、どうでもいいですが、彼の会社は、おそらく数年後には消滅しているんじゃないかなぁ。「今までは、客をそそのかして、うまく商売やってきたかもしれないけど、そんな世の中甘くないぞ!」と彼に言ってあげたいです。

3.開業するまでの期間

 私の場合、決断と実行が本当に早かったと思います。平成29年1月に同じ病院に勤務する外科の先生が、開業するという話を聞いて、ビックリしました。なぜって、50歳を過ぎていたし、その病院にも長い間お勤めになっていたから・・・。  

 身近に開業する先生がいるというのは、毎年開業熱が出たり消えたりする私にとっては、願ってもいないチャンスということで、その先生に、事の成り行きを聞いてみました。詳細は書きませんが、50歳という年齢でも、銀行が融資を十分してくれるということでした。あとは、コンサル業者をどこに選定するかということが大事ともおっしゃっていました。  

 その外科の先生の場合、2年前からすでに開業に向けて準備していたようです。対する私は、平成29年1月に意志を固めて、数か月後には開業していますから、あっという間ですね。今思えば、もっとじっくり考えても良かったのかなぁと思います。  

 私は、決断は早い方だと思います。元々忍耐力はありませんし、飽き性なので、考えれば考えるほど、「めんどくさい」と思うようになります。勉強もそうです。幼少期から、テスト勉強は一夜漬けが多かったですね。切り替えが早いのかな。嫌なことがあったら、その日か翌日は引きずりますが、3日後には、たいてい忘れてしまっています。  

 話がそれましたが、開業までの期間は、1年~2年は必要と思います。ただ、私の場合、テナント開業なので、のんびり構えていたら、その物件が他に渡る可能性がありますし、かといって、テナント料を無駄に払い続ける資金もありませんでしたので、わずか9か月で開業して結果良かったとは思っています。