何月に開業するのが良いか?

 何月に開業するのが良いか?

 自己資金・運転資金が十分ある場合は、好きな季節に開業しても良いと思います。まぁ、真夏と真冬は、外出する人は少ないですし、患者目線で言うと、気候的には、春とか秋がいいかもしれませんね。

 医療機関目線ならば、GW明け・お盆明け・正月明けは、院内が混雑しますので、その時期は外した方がいいと思います。

 開業直後は、ドクターもスタッフも何かと戸惑うものですし、トラブルが起きた時に(医療そのもののトラブルではなく、システム障害やレセプト処理の迷い等)、患者様をお待たせすることになりますよね。それって、二度と足を運んでもらえない可能性があります。

 また、開業当初は、再診はほとんどいなくて、初診が中心ですから、問診も診察も、それなりに時間がかかります。まぁ、開業当初から、大混雑のクリニックは、今時、都会では皆無でしょうから、都会で開業されるドクターはそこまで気にする必要は無いかもしれませんね。

 さらに、開業時には、ドクターショッピングの方も来院されますし、新規開業するドクターを狙ってか、「物言う患者」も来院します。「最初が肝心!」と気合を入れて、スタッフもドクターもバカ丁寧に対応すると思いますので、余計に話が長くなりがちで、疲労も蓄積します。


 さて、冒頭に書いたように、「自己資金・運転資金」があまり無い場合は、年始とか春先に開業することはお勧めしません。

 なぜなら、前年分の税金支払いが待っているからですね。私のように、開業理由の1つに、勤務医時代から、さらなる年収アップを期待しているドクターは、年収や節税にこだわって勤務医をしているのではないかと思います。よって、開業前年の収入もそれなりにあるはずです。その結果、翌年に支払う税金が、開業後に負担となるのです。

 詳しく説明すると、毎年2~3月には、確定申告がありますが、常勤以外のバイトをたくさんしている場合などは追加徴収のこともあります。常勤は※「甲」、非常勤(バイト)は「乙」ですから、甲区分である主たる勤務先の病院では、常勤での収入見込みから、毎月所得税が給与天引きされますよね。多くのドクターは、33%か40%の所得税率でしょう。その税率で毎月、給与から源泉徴収されています。

※ 給与所得者の扶養控除等申告書を提出している勤務先が「甲」です。すなわち主たる勤務先ですね。それ以外の勤務先があれば、それは「乙」です。

 一方、主たる勤務先以外の医療機関でバイトをすれば、バイト先でも源泉徴収(「給与所得の源泉徴収税額表」と検索してみてください)されます。どれだけバイト先で給与をもらっているかは、人それぞれでしょうが、1か所のバイトであれば、主たる勤務先の収入にもよりますが、確定申告時に還付されるかもしれません。しかしながら、複数のバイト先がある場合は、各バイト先の源泉徴収が少なめに設定されるため、トータルのバイト収入が多くなった場合、確定申告時には、主たる勤務先の病院での所得税率とバイト先での所得税率の差率が生じ、その結果、確定申告時に相当の追加徴収となるのです。

 例(あくまでザックリです);
① 病院での収入2,000万、バイトA病院60万/月→総収入2,720万。源泉徴収「甲」360,000円×12か月+A「乙」200,000円×12か月=432万+240万円=672万円
② 病院での収入2,000万、バイトB病院20万/月、C病院20万/円、D病院20万/月→総収入2,720万。源泉徴収「甲」360,000円×12か月+B「乙」20,000円×12か月=240,000円+C「乙」20,000円×12か月=240,000円+D「乙」20,000円×12か月240,000円=432万+72万=504万円

 社会保険や扶養控除等を総収入から引いて、ここでもザックリですが、総所得が2,000万円とします。従って、{2,000万―279万(所得税率区分40%の場合の控除額)}×40%=688万が所得税です。すでに源泉徴収されているのが、①の場合は、672万円ですので、実際、確定申告時の追加徴収分は、688-672万=16万円ですね。ところが、②の場合は、504万円しか源泉徴収されていないことになりますので、688―504万=184万円の追加徴収が出てくるのです。この額は、開業後の経営が順調であれば、問題ないのですが、うまく軌道に乗らないうちは、かなり辛い支払いになるかと思います。

 5月には住民税が確定します。勤務医時代は当然、給与から住民税が引かれる「特別徴収」ですが、開業すれば、「普通徴収」に代わります。要するに、自分で税金を払う必要があるのです。上述の額でいけば、10%の住民税ですから、普通徴収額は、{2,000万―279万(所得税率区分40%の場合の控除額)}×10%=172万円ですね。分割払いできるとしても、それなりの額です。

 前年の所得が前々年の所得に比べて増えていれば、予定納税も発生します。3回に分けて支払いですから、7月・11月と翌年の確定申告時に分けて支払う必要があるのです。予定納税を支払っても、開業してしばらく赤字続きであれば、翌年の確定申告時に、たいてい予定納税した分は、還付されます(利子付きで)ので、ご安心を。

 その他、もし、持ち家があれば、5月頃には、固定資産税の支払いも必要ですからね。

 開業翌年には、テナント開業であっても、医療機器の固定資産税の支払いも待っています。

 開業って、勤務医時代とは違い、大きな額が動きます。心配無用です。開業数年したら、億の借金も「ふ~ん」と特に何も感じなくなるのです。

 まとめますと、開業月は、資金に余裕があるならば、1月でもOK。慎重に行くならば、勤務医を半年してから、夏以降に開業でしょうかね。

2023年11月26日